いつからだろう。こんなに惹かれてしまったのは。 床にひざまずき、目を閉じる。 みんなが起き出すより少しだけ早く起きて、朝のお祈りをするのが日課だ。 手を握るように合わせ、一心に祈る。 そして祈りの最後に、忘れてはいけない一言。 「今日も姫様をお守りください」 年の近さから、遊び相手として姫に近づくことを許された。 自分より年下の姫は、身寄りのない神官にとって妹みたいなものだった。 だが。やんちゃな姫はどんどん魅力的な女性へ変貌していって。 表情のひとつひとつがどきりとさせた。 愛しいと感じた。 だからと言って、何だというのか。 階下の食堂へ向かう。 朝食までにはまだ間がある。 食堂で本でも読みながらのんびりくつろぐ。 と。 「おはよー。今日も早いね」 アリーナと同室のデイが食堂に入ってきた。 そろそろ姫様が起きてこられる頃かな。 身分違いの叶わぬ恋だと、自分がいちばんわかっている。 それに加えて自分たちは今、世界の命運を賭けた戦いに身を投じているのだ。 そんな中で女にうつつを抜かしているなどと、仲間たちに思われたくなかった。 何よりそんな自分のエゴで、愛する姫君が離れていくのは耐えられなかった。 宿屋の主人に道具借り、材料を分けてもらって紅茶を入れる。 姫様はミルクティーがお好きだから、たっぷり牛乳を加えよう。 長年共有した時間の中で、熟知している姫の嗜好。 想いを伝える気はなかった。 かちゃりと食堂の扉が開く。 そこには待ちに待った少女の姿。 「クリフトおはよっ」 いつも通りの元気そうな笑顔。 そうだ。 いつだってこの笑顔に救われる。 クリフトも笑顔で挨拶を返す。 「おはようございます、姫様」 あの日祖国を飛び出してから、彼女はどれだけ私の希望だっただろう。 あの日から今日までに、彼女にどれだけの幸せをもらっただろう。 すぐ近くにいる。少なくとも今は。 身分違いのこの恋に、これ以上何を望むというのか。 「そろそろ起きてくる頃だろうと思って、ミルクティーをご用意しています。召し上がりますか?」 そう問いかけたクリフトに、アリーナはこぼれ落ちんばかりの笑みを浮かべる。 想いは伝えない。 そんな大それたことはしませんから、どうか神様、いつまでも。 クリフトはミルクティーを差し出した。 アリーナが美味しいと言ってくれることをちょっとだけ期待しながら。
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