その日、朝からクリフトはおかしかった。 いつも早起きのクリフトが、あたしより遅く起きてきたし。 朝ごはんもスープ1口しか食べなかったし。 何か気になることがあるのか、ぼーっとしてることが多くって。 さっきも銀色の動く鎧をじいと2人で必死に壊そうとしているとき、クリフトは1人離れたところでホイミスライムに頭をぺちんと叩かれていた。 そして、ずーっとうわの空で。 あたしが楽しそうに話しかけても反応が鈍くて。よそよそしく、「はい」とか「そうですか」とかどうでもいい答えばかりで。 どうしちゃったの? 何かさみしい… ひょっとして、あたし、何かした? お、怒らせちゃったのかな… 何したっけ?何かしたっけ?? でも、そんなクリフトをおかしいと思ったのはあたしだけじゃなかった。 じいも「恋煩いかのぅ?」なんておどけて言いながらも、相当心配みたいだった。 …。 コイ? スキナヒトデキタ? ドッカイッチャウノ? 何だろう。 今、何か、引っかかったような。 モウイッショニイレナイノ? ヘンな、感じ。 …まあいいや。 森の中で本日幾度めかの戦闘が終了した後、じいが手を洗える所がないか探しに行った。倒したモンスターの体液で杖を持つ手が滑るかららしい。 クリフトはついていかず、いってらっしゃいませと一言行って、倒れた木に腰掛けた。 これはチャンスかも。 あたしは、よしっ、と気合いを入れて、クリフトのところへ行って横に座った。 何か言ってくれるかな?と期待しながら、しばらくそのままでクリフトの様子を伺ってみたけど……………。 沈黙。 いつもだったら「お怪我はありませんか?」とか「毒にやられてませんか?」とかうっとーしいぐらい心配してくれるのに。 そういえば、今日は笑顔も潜んだままだ。 やっぱり…怒ってるんだ… モウ、ワライカケテクレナイノ? イナクナッチャウノ?? 爆発寸前の不安のかたまり。胸が苦しくなる。 アタシハ………アタシハ、イッショニイタイノニ たまらず。 思わず。 勝手に口が動いた。 「ごっ…ごめんねっ」 「え……姫様?」 「今日クリフトがおかしいのって、あたしが何か気に触ることしちゃったからよね。ごめんね、あたし鈍くて全然気づいてないの。謝るから、ちゃんと謝るから、理由言ってほしいの」 本心だった。わけがわからないまま避けられるのは嫌。 でも、クリフトの顔に浮かんだのは困惑。…そして、段々それがなくなり、代わりに顔を覆っていったのは、後悔と、心底申し訳なさそうな表情だった。 「…そんな。姫様は悪くないのですよ。…ああ、ご心配おかけすまいと思っていたのに」 ふう、と悩ましげに息をはく。 「………姫様」 「…え?」 クリフトが呼びかけあたしを見る。その声が硬い。 心なしか瞳が潤んでいて。頬はいつもより赤みが差していて。 スゴク、イロッポイ… 群青色の瞳にあたしが映る。 自分の顔が熱くなるのがわかった。 思いつめたような彼の表情。まっすぐな視線に目がそらせない。 と。 (えええええ!?) クリフトが目を閉じた。そのままクリフトの顔が… (ちょっ…ちょっと待っ…) 近づいてきて。 キスサレル! ………どたっ 「きゃっ!?」 抱きついた、というよりは明らかに倒れこんできた。 全身の力が抜けてるようで、クリフトの全体重に耐えられず、あたしたちはそろって倒木から滑り落ちた。 「クリフト…?」 クリフトは動かない。 「ねえ…クリ」 偶然触れた肌と肌。 熱い。 よく見れば、額に浮かぶたくさんの玉のような汗。 これは…これは、普通じゃない!! 「ブライっ!ブライっっ!!大変、クリフトがぁっ!!!」 ことは一刻を争う事態。なんせ状況がつかめない。 気絶しているクリフトをすぐに背負い、慌てて戻ってきたじいと一緒に町を探した。近くにミントスという町があることはわかってた。 青いキノコが氷を投げつけて来ようが、赤いトカゲが火を吹こうが、金属サソリが刺して来ようが、クリフトを背負ったまま放つあたしのひと蹴りと、じいのヒャダルコで切り抜ける。 まさに火事場のなんとやら。 電光石火の如く森を抜け、草原を駆けた。 それでも。 あたしの背中でぐったりしているクリフトの重さを感じながら。 よかった…怒ってたんじゃなかったんだ…。 キラワレタンジャ、ナカッタンダネ イッショニイテモ、イインダネ 心をよぎった気持ち。 不謹慎ですか? これが、始まり。 追伸。クリフトへ。 辛いんだったらちゃんと言ってよねもぅっ
|
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||