「姫様…。ソレは何ですか?」 「そこの棚に置いてあったの♪」 「で、ソレをどうしてお持ちになってるんです?」 「あのね、あのね、気に入っちゃったのっ」 顔を高揚させて嬉しそうに言う姫の腕の中で、ソレはクリフトを見つめていた。 ちょっと…いや、だいぶ大きくて、でもちょうど抱えやすい形の。 ふあふあピンクの………それはそれはやわらかそうな可愛い子ブタのぬいぐるみ。 つぶらな瞳がとっても愛らしい。 (でも…) ちらり、と子ブタに目をやる。 左足のタグに見える5,000Gの文字。 (でも値段はちっとも可愛くないっ) 心の叫びであった。 「あのね、クリフト」 「ダメです」 「何よぉ、何にも言ってないじゃない」 「仰りたいことはわかります。ダメです。お戻しください」 「けち〜」 「意地悪で言ってるんじゃないんです。その子のためを思って言ってるんです。旅に連れ出したらぼろぼろになっちゃうでしょう?」 「だいじょぶだってば!汚れちゃったらお風呂にちゃんと入れるし!」 「そーいう問題では…」 「ねえ、クリフトぉ………」 その子ブタの頭にぽふんと顔をうずめて。 うるうるおめめの子ブタとともに、子ブタとお揃いのうるうるおめめで、しかも上目遣いでクリフトをじーーーっと見つめ。 「………買って?」 ……………。 ………………………………………。 …………………………………………………………。 あうう…… 「ありがと〜ございましたぁ☆」 営業スマイル満開の店員に見送られつつ外へ出る。姫の腕の中にはもちろん桃色ふあふあが1匹。 クリフトありがとっ!と子ブタとはしゃぐ姫君のすぐ横で。 ああ…何て私は甘いんだ…なーんて頭を抱える。 持ち合わせも頼りなくなっちゃったし…とほほ。 それでも。ついつい買ってしまったそのわけは。 だって可愛かったんですもの… 顔から落ちそうなぐらい大きな瞳であんな風に見つめられたら… (あああああっ) 自己嫌悪。 「どーしたのクリフト?」 「…いえ…何でもございません。ございませんとも」 気づかれるまいと、こほんとひとつ咳払い。 「そうだ、この子の名前は何にするんですか?」 「えへ、もう決めてるんだぁ」 「さすが姫様、お早いですねえ。何というお名前ですか?」 「トンカツ」 「…………は?」 「名前は『トンカツ』。いい名前でしょ?みんなトンカツ好きだしいいと思うんだあ」 そ、それは、好きの意味が違う気が…。 「あの…差し出がましいことを申しますが、それだとあまりに美味しそうでマーニャさんが間違えて食べてしまうと思うんですが…」 さらりと失礼なことを言ったなクリフト。 「そう…?じゃあ『酢豚』」 「あの…」 「やなの?じゃー『チャーシュー』」 「ですから…」 「『ホイコーロー』!!」 「…食べ物から離れましょうよぉ…」 10分後。 「じゃー『ポーク』!もうこれ以上可愛い名前なんてないしっ!お料理の名前じゃないしっ!決定っ!!」 「……………そぉですね、いいんじゃないですか」 姫様、『ポーク』は『豚肉』って意味ですよぅ…。 心の中で呟けど、もう声にする気力は神官にはない。 よーし、今日からお前は『ポーク』よ♪、と桃色のふあふあを振り回し抱きしめながら走ってゆく王女を、ひたすら遠い目で見送っていた…。 晴れて。 姫君に選ばれた光栄なる子ブタのふあふあぬいぐるみは、いい加減疲れてきた神官の最大限の譲歩により、姫君からその名を頂戴することとなったのです。 っていうか、姫様、ネーミングセンス抜群に悪かったんですね…。 将来姫様にお子様が生まれても、決して姫様には考えさせないようにしよう。 半ば思考回路停止状態の脳みそでそう考えたクリフトなのでした。 その後、『ポーク』のたどった道は… あまりにふあふあであまりにかわゆくてついでに大きさも手ごろだったせいで仲間たちのアイドル的存在となり、馬車の中でクッションに枕にと大活躍だった模様。 めでたしめでたし。
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