冬将軍 その日、この冬いちばんの冷え込みを記録した。 雪こそ降ってはいなかったけれど、冷気は容赦のない冷たさで旅人を襲う。 そんな日に限ってどこの町にもたどり着けないまま、夜を迎えた。 * * * 「あ〜あ、でもホントについてないの〜」 「仕方ありませんよ姫様。はい、スープが温まりましたよ」 この夜14度目のアリーナのぼやきに、クリフトはこの夜14度目となるなだめの言葉をかけた。 言葉と共に差し出しされたクリフトのスープを、ありがと、とアリーナが受け取る。 寒そうに体を縮ませながら、それでも美味しそうにスープを口にした。 今夜の見張りはアリーナとクリフト。 ただ単に運悪く順番が寒い日にあたってしまっただけなのだが、これだけの冷え込みではアリーナが文句を言いたくなるのもわかる気がする。それほどに今夜は寒い。 2人とも厚手の防寒着を身につけて見張りをしていた。しかしそれでも手の先足の先から冬の空気が忍び込んでくるのは、どうしようもないことだった。 くしゅんっ 控えめなくしゃみが響いた。 「お寒いんですか?」 「ちょっとだけ。でも平気」 「でも心配です…夜が明けるまでまだまだ時間もありますし…。 …あ、そうだ。毛布お使いになりますか?」 「あるの?」 「ええ、確かあったはずですよ」 そう言いながら、クリフトは馬車に向かった。 そして1枚の毛布を抱えて戻ってきた。 「はい、どうぞ」 「わーい」 渡された毛布に飛びつくように受け取る。 あっという間に毛布にくるまり鼻から上だけ出して、アリーナは嬉しそうに笑った。 「…あれ、クリフト使わないの?」 「私はいいですよ」 「でも寒いよ?」 「大丈夫ですよ。それに毛布はもう余ってないです」 「…ホントに寒いよ?」 「大丈夫ですよ」 この革のコートは分厚いですし、今作ったスープもありますし。 そう言おうとしたその時、肩にぽふっと何かがかけられた。 それが自分がさっきアリーナに渡した毛布だと気づくまでたっぷり3秒。 …そして、いつの間にやら自分の隣にアリーナが入ってきており、一緒の毛布に仲良く包まれているという状況を認識するまでに、さらに10秒――― 「わーーーっっ!!?」 「きゃ、びっくりした」 「びびびびっくりしたのはこっちですっ!!なななななんで…」 「だって、毛布1枚しかないんだよ?」 「そ、それはそうなのですが…」 「あっ!!それとも、あたしが横じゃイヤとか…?」 「いっいいえ!嫌だなんてそんなこと…」 「ホント?よかったぁ〜」 「…」 (あああああ…) 本心が本心だけに、強く断れない自分が情けない。 昔はこんな風にくっついて1冊の本を読んでたこともあったねー、と懐かしそうに話すアリーナの横で、クリフトは飛び出さんばかりの心臓をなだめるのに必死だった。 突然勃発したこの状況に、頭はパンパン体中汗だらけ。 クリフトの体温は確実に上がっていった。 そんなときに。 「あったかくなった?」 クリフトの心の内を知ってか知らずか。 絶妙なタイミングで投げかけられた、アリーナの問いに。 「…なりました」 そう返すほか、なかった。 * * * その後、ようやくクリフトは落ち着きを取り戻し、自然とアリーナとの会話が始まった。 初めは焚き火の火の大きさ。次は魔法の仕組み。 距離の近さのおかげか、いつも以上に話は盛り上がる。 子供の頃の失敗談から自分達の運命の話。 愉快な話から真剣な話まで、切れることなく語らいの時間は続いた。 気づけば、いつの間にやら空の濃紺は薄れ始めている。 もう朝が来る。 「もうみなさん起きて来られますね」 「もうそんな時間?あれだけ時間経つの遅かったのに。楽しかったからかなあ?」 嬉しそうに笑うアリーナの言葉は、今のクリフトにこれ以上ない幸せを与えたことは言うまでもない。 「こんな見張りなら、いくらあってもいいな」 これがアリーナの、15度めのぼやき。
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