22.呼んでみただけ ...04/10/09 ミントスの宿屋の一室。 クリフトは眠っている。うめいてはいないが、額に玉の汗が浮かんでいて苦しそうだ。 アリーナは枕元に立っていた。ブライはいない。 「クリフト…」 ぽつりと名前を呼ぶ。 返事はない。 いやが上にも襲ってくる冷たい胸騒ぎを、必死に追い払った。 * * * 数日後。 がらがらがら、と音を立てて走る馬車の後方をアリーナは守っていた。 そしてアリーナの斜め前で、同じくクリフトが馬車の守備に就いている。 クリフトはもうすっかり回復していた。床に伏していたとは思えぬ活躍ぶり。 嬉しかった。 また声が聞けるのが嬉しかった。 一緒に旅できるのが嬉しかった。 でも。まさか。ひょっとして。 時々頭をかすめる不安。 夢? 自分の願望が見せている夢だったらどうしよう? 目が覚めたら、まだクリフトは苦しみの中にい続けているのではないだろうか? 「…クリフト」 小さく、ホントに小さく、自分自身に確認するように。 声に出して呼んでみた。 くるり。 クリフトの顔がこちらを向いた。 「はい?何でしょう、姫様」 あああああごめん、やっぱりよくなった。何でもないや、と大慌てでぱたぱた手を振って誤魔化し笑いをするアリーナ。 顔が赤くなっていることに気づきませんように。 ちょっと不思議そうな表情をしたが、クリフトは笑顔のまま、はい、といって元に戻った。 ほーっと、アリーナは胸を撫で下ろした。無意味に焦ってしまった自分が恥ずかしくなる。 けれど同時に、改めて湧き上がる喜び。 今度はちゃんと用事を考えて、呼びかけてみよう。 アリーナの顔は自然とほころんでいた。
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