16.足音 ...04/09/22 ある日。 アリーナは城を抜け出て、近くの林に出かけようと思い立った。 もちろん、無許可。 表の門から出るのは自殺行為。 裏口はキッチンと繋がっているので必ず誰かがいる。 自分の部屋は2階。 散々悩んで、聖堂の前の廊下のつきあたりにある小窓から抜けることにした。 そこならもし目撃者がいても「聖堂に入っていった」と思ってくれるに違いない。 短絡的な考えだったけど、即実行がモットーのアリーナ。 いつもの動きやすい服に革靴。いつもと違うのは腰に下げた薬草入りの皮袋。 さりげなくさりげなく廊下を歩く。不審がる人は今のところいない。 聖堂の扉の前を通り過ぎた。あと少し…! がちゃ。 「何やってるんですか姫様?」 「うきゃああっ!!」 完全に不意を打たれてずざーっと飛びずさる。 扉の前にはきょとんとした表情のクリフトがいた。 「足音がしたので姫様じゃないかと思って見てみれば、やっぱり姫様だったんですね。あー?もしかして、また城を抜け出そうとか考えてるんでしょう?駄目ですよ姫様!」 「あーもぉ〜、怒らないでよー。…でも何で足音だけであたしってわかったの?」 「ああそれは、足音が姫様独特でしたから」 「独特?」 「ええ。まずヒールと革靴は足音が違うのはわかるでしょう?だけど姫様の愛用されている革靴はこの城の兵士のものと違って、ちょっとかかと部分が固く高めに作られてるんです。ほんのちょっとですけど、足音にはすぐ表れます」 「…はー。よく見てるのね…」 結局、アリーナの計画は不成功に終わってしまった。 次の日。 がちゃ。 「…姫様」 「ぎく」 「…懲りませんねまったく」 「ええ〜?何でバレたのー?時間も靴も変えたのに」 昨日と同じように、足音がアリーナではないかと思って扉を開ければ、案の定外に出る気満々のアリーナの姿。 しかし、昨日と違い、足元が城の兵士が履いている革靴に変わっていた。 「昨日ひとつ言い忘れましたけどね、音の種類以外にもあるんですよ、理由」 「何それ?」 「体重ですよ。姫様はかなり身軽でしょう?対して兵士たちは皆大きい方ばかりです。足音が軽いんですよ」 「うそー?そんなことまでわかっちゃうの?」 「わかります」 「う〜…」 その日の夜。 アリーナは自室で珍しくノートを広げていた。 「えーと、靴を変えただけじゃ今日みたいになるから…でも発想は悪くないよね。いっそあたしが太っちゃえば…あーんでもそれじゃあ弱くなっちゃうし…。じゃあ何か背負って…ってそれじゃあ聖堂に行く前に捕まっちゃう。う〜…どーしよう…」 いつにない真剣さでノートに必死にペンを走らせる。 絶対クリフトの鼻を明かしてやるんだから。 絶対クリフトに気づかれずに聖堂の前を通り過ぎてやるんだから。 でもって、成功したらクリフトにたくさん自慢してやるんだから!! いつの間にか当初の目的と変わってしまっているアリーナが床に就くにはまだまだ時間がかかりそうだった。
|
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||