15.あなたを殺させはしない ...04/09/19 「ねえねえシンシア、『せかい』ってなぁに?」 やっとものが読めるようになったばかりの少女が分厚い本を片手にとてとて、と駆け寄ってきた。 それをきっかけに、シンシアの『講義』が始まった。 「世界ってのはね、たーくさんの人とたーくさんの動物が、ごはんを食べたりおしゃべりをしたり夜眠ったりしてるところよ」 「えー?あたしもごはんたべるよー?」 「そうね。だからあなたも世界にいるのよ」 「おとーさんも?」 「ええ」 「おかーさんも?」 「そうよ」 「シンシアも?」 「もちろん」 イメージが全然つかめないのだろう。シンシアの膝の上にちょこんと座った少女はきょとんとしている。 わからないのも当然だ。それでもシンシアは講義を続ける。 「世界はね、ずーっとずーっと向こうにも広がっていて、この村がたくさんたくさんたーくさん入るぐらい広いのよ。森だけじゃなくて、一面水だらけのところもあれば、砂だらけのところもあるし、家だらけのところもあるの」 「みずだらけ?おさかながいるあのいけよりもみずだらけ?」 「そう、水だらけ。その水だらけはね、海っていうのよ」 「うみ?うみ、みたいー!ねーシンシア、みにいこーよぉ」 「今はだーめ。…あなたがもっと大きくなったらね。でないとたくさんの水に飲み込まれちゃうわ」 「そっかぁ〜。じゃーあたしがおおきくなったら、シンシアといっしょにうみみるの!ぜったいだよ!やくそく!」 期待に瞳をきらきらさせて、シンシアを見上げてくる。 うん、約束するわ、とシンシアは少女の翡翠色の髪をなでた。 …大丈夫。あなたの未来は変わらない。 あなたは絶対に海を見れるわ。 たとえ、約束は守れなくても、あなただけは私が護るから。 シンシアは少女の髪を、優しくなで続けた。 祈りを込めて。
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